雪国では、2月の末頃から天気の良い日の朝は、昼間溶けた雪の表面が凍結して
「かた雪」になる。雪原を歩いても全然沈まない。わたしが子供の頃は、学校へ行く
時も、道路は歩かずにかた雪の雪原を一直線に歩いて行く。かた雪の雪原を歩くこと
を「かた雪渡り」といっていた。いつもならひざまでぬかるむ雪原が少しも沈まずに
歩けるので、なんだか空中を歩いているような変な感じがする。雪国の冬の最大の楽
しみだと思う。今は大人の目の届かないところで事故でも起きると大変だからと、か
た雪渡りで登校するのは禁止されているようだ。凍結した雪原に朝日が当たるとダイ
ヤモンドダストを敷き詰めたようにキラキラと光ってまぶしく、現実の世界ではない
ような気になってくる。
3月の始めになると、田んぼの掘りの上では雪が早めに消えて、少し沈んでいるの
で、堀の上だということがすぐにわかる。いつもはそういうところは、雪が抜けて堀
に落ちたりしないように、気をつけて歩くのだが、わざとその上で力を入れて飛び上
がり、誰が落ちるかを競う「ロシアンルーレット」のような危ないことをしても遊ん
だ。堀に落ちて、長靴やズボンが水浸しになることを「かびだれモチを喰う」とか
「かびだれを喰う」といっていた。たいていのばあい、運動神経の鈍い子が犠牲になっ
た。今考えれば、一種のいじめのようなゲームで、当時でも大人からは禁止されてい
たが、いつも負けるような子供でもつい挑戦してしまう雰囲気だった。
かた雪は天気が良いと、お昼前には溶けてしまって、またもとのぬかるむ雪原に戻っ
てしまうので、夜明けから10時くらいまでしか楽しめない。かた雪の日は少し早く起
きて、家や学校の近くの山に行き、杉の葉をお尻にしいてソリの代わりに使って、てっ
ぺんから下まで滑り降りる。「ゲスゾリ」と呼んでいたがかた雪の日の最大の楽しみ
だった。杉の葉が凍結した雪原で擦れて、緑の跡がつく。かた雪の日には、山のてっ
ぺんから、滑り降りた子供の数だけのパステルグリーンのストライプ模様がつくのだ。
ふだんなら登るのも難しいような山にやすやすと登れて、すばらしい見晴しの中を
一気に滑り降りる爽快感。そして、大自然の中に自分達がつけた緑のゲスゾリの跡。
これは雪国に育ったた子供にしか体験することも見ることもできない楽しみだった。
大人達もかた雪を利用して、山を見て歩く。夏なら草をかき分けて何時間も歩かない
といけない所でもかた雪の日なら簡単に行ける。
なんとか、このかた雪渡りの楽しみを、まだ体験したことも見たことも無い都会の
人達や雪国以外の地域に住んでいる人達にも体験させてあげたいような気がする。