6月の末から、7月のはじめの梅雨の真っ只中がクリの花の季節だ。クリの花は匂いが強烈な梅雨せいか、雨の多い時期に色鮮やかなきれいな花が咲いているわけでもないからか、あまり話題になることが無い。バラや桜の花のように、文学作品で取り上げられたとか、タイトルになったという話も聞かない。季節の風物を表現する俳句や短歌でもあまり取り上げられてはいないようだ。
クリの実のほうは、秋の風物として、イガに入ったものも、イガから出たものも、写真で見る機会はよくある。クリの写真を見ただけで秋だと感じることができるほどよく知られている。クリ羊羹や焼きグリ、クリ入りの饅頭、マロングラッセなどを食べたことがない人はいないだろう。クリやイガの絵をかけない子供もほとんどいない。
しかし、クリの花の絵を描いてみてくださいといったら、いたるところクリの花だらけの田舎に住んでいる子供でも、絵に書けるほど正確に花の形を知っている子供は一クラスに何人もいないと思う。クリの花の写真が新聞や雑誌、テレビなどで紹介されることはめったに無い。都会育ちの人など、クリの花など見たことも無い人が多いに違いない。しかし、クリの花の匂いが人間の精液の匂いにそっくりなことはよく知られていて、「クリの花の話をして、赤くなったり、変な顔をしたら、男性経験がある証拠」などという冗談のほうは、本物のクリの花よりもよく知られている。花の形もわからないまま匂いだけはこれほどよく知られている花は栗の花くらいではないだろうか。
薄く緑がかったしろい小さな花が集まって、長さ10センチ直径10ミリくらいの花房になっていて、その花房が栗の木の枝先から、1箇所に10本くらいまとまってついている。良く見ればきれいな花だ。花の時期はクリの木全体が、花で葉が隠れるほどなのに、葉とあまり違わないような花の色のために目立たないのだ。晴れた日には、ミツバチが、蜜を集めて飛び回っている。ミツバチが蜜を集めるときに花粉をつけることで受粉する。クリの蜂蜜は黒っぽい色をしている。明るい色のトチやレンゲの蜜ほどの人気は無かった。花も知らないのだから、蜂蜜にばかり人気が出るはずも無い。
受粉の時期が終われば、花は茶色く変色して、落ちてくる。7月後半の時期に、クリの木の下に行けば、茶色くなって干からびたクリの花房がびっしりと敷き詰めたかと思うほど落ちている。しかし、それが誰かの目に止まってクリの花の抜け殻だと気にとめられる機会も少ない。つくづく地味な花だ。わたしは木の実のクリも、樹木としてのクリの木も、材木としてのクリの木も、花としてのクリの花も好きだ。
なんだか、もっとクリの花のことをたくさんの人に知ってもらえるように応援してやりたいように気持ちになってしまう。
花の時期に長雨が続けば受粉できなくて、栗の実も不作になってしまうだろう。だから今年のような空梅雨で晴れた日が多ければ、栗は大豊作になるかもしれない。
--- たもかく ---